賭博市場、 Betting Exchange での賭け方 その2 〜 試合中に賭けるイン・プレイ・ベット

スポーツの試合を対象とする賭博市場にはいろいろな賭け方があります。今回はその中で最も人気のある賭け方、イン・プレイ・ベット(in-play betting)を紹介したいと思います。

刻々と変化するオッズ

インプレイベットとは試合中に行う賭けのことです。呼称は様々で他にもイン・ランニング・ベット(in-running betting)、ライブベットと呼ばれたりもします。もちろん、試合中なので状況は刻々と変化しますし、それに応じてオッズも変化します。特にサッカーのような攻守の入れ替わりが激しいスポーツはオッズも激しく変動します。以下の図は、昨日行われたエル・クラシコ、Real Madrid v Barcelona のオッズの時系列推移です。試合前の変化に比べて、試合中の変化の激しさが分かると思います。(しかし、最近のクラシコは「バルサがレアルをボコる」という構図ですな。)

図1 Real Madrid v Barcelona オッズの時系列推移

折れ線はそれぞれのオッズ、バーは累積出来高を表しています。バーの色は試合前と試合中とで変化させてあります。



試合中の動きももう少し細かく見てみましょう。試合の中で、得点やレッドカードによるプレイヤーが退場など、両チームにとってその後の戦略/戦術に大きな影響を与えるイベントが発生した場合には一旦市場はサスペンド(一時中断)されます。その際、約定していない注文はすべてキャンセルされます。市場が再開するとベッターは各々新規に注文を出し、徐々に板が寄せられていきます。イベントが多く発生した例としてチャンピオンズリーグ準々決勝 Arsenal v Barcelona 1st leg を例にとり、試合中におけるオッズと発生したイベントの時系列を見てみましょう。

図2 Arsenal v Barcelona 試合中のオッズの推移

前半はいくつかのイエローカードが出たのものの、結局両チームとも得点がなく0-0で終了します。両チームとも時間とともに期待ゴールは減少していきますので、ゆるやかにhomeとawayの価格は下がり(オッズが大きくなる)、drawの価格は上昇(オッズが小さくなる)していきます。

後半はイベント盛り沢山でした。46分、バルセロナイブラヒモビッチがゴールします。直後オッズが大きく変化しているのがわかります。バルサの勝利が濃厚となってきますから、awayの価格は急上昇しhomeとdrawの価格は急落しています。(drawのゼロはまだ板が整っていないための一時的な数字。)そして、59分、ズラタンの2発目が決まると更にオッズは変動、homeとdrawの価格はグラフからはみ出してしまいます。*1しかし、69分のウォルコットのゴール、84分、プジョールのファールによるPKで試合は同点へと引き戻されます。しかしながら、その時点での残り時間はわずか5分、期待ゴールは大幅に減少しています。よって同じ同点という状況でも試合開始直後とは異なりdrawの価値が大幅に高まり、homeとawayの価値はもうそれほどありません。

このように、試合中のベットはオッズの激しい変化に対応して行わなければなりません。

大商いの理由

図1の出来高を見ると、このインプレイベット、通常の試合前のベットよりかなり人気があることが分かります。賭博市場運営者の収益は払い戻し x コミッション率*2ですから、出来高はそのまま収益を表し、インプレイベットは今や賭博市場経営者にとって大きな収入源となっております。イベント発生時に即座に市場をサスペンドできるよう環境を整える必要があり通常のベットより運用コスト高ではありますが、ある程度の市場規模(=コストをペイできる規模)になるとインプレイベット市場が開かれます。


実際に試合を見ながら変化し続ける状況を考慮してベットする、という行為は確かに試合観戦をより一層エキサイティングなものにするかもしれません。その人気に目をつけてタイムラグ作ってイカサマをする、なんて事件もどこかでありました。しかしながら、私は単純に人気だけがこのインプレイベットの出来高を説明できるとは考えていません。というのも、インプレイベットを利用することにより他の市場との様々な裁定機会が発生するからです。これはまた、他の市場の話などで折に触れていこうと思います。

おまけ

ラグ・イカサマのURLが見つからなかったのでここに引用しておきます。ちなみに実際の賭博市場の情報は早いです。板を見ながら試合を観ていると映像より早く得点が分かってしまうことがあって、試合観戦自体の楽しみが半減してしまうので注意が必要です。

欧州サッカー八百長、中国マネー流入と黒幕暗躍 マフィアの結託で違法賭博が「国境消失」し、八百長行為がエスカレート

今月中旬に欧州サッカーの約200試合を対象とする八百長疑惑が発覚し、過去最大規模の違法サッカー賭博事件として欧州各国に衝撃を広げている。独シュピーゲル誌によると、八百長試合はドイツをはじめ17か国に拡大。背景には中国マネーの流入や、欧州とアジアのマフィア同士の結託といった組織犯罪の国際化があったと見られ、捜査当局が本格捜査に乗り出した。

独紙ウェルト日曜版(22日付)によると、八百長工作の黒幕とされるのは、ベルリン在住のトルコやバルカン諸国出身者5人。このグループが他の犯罪組織と共謀し、サッカー選手や監督の買収などを行った。

トルコ3部リーグのある試合では、3万ユーロ(1ユーロ=約130円)を監督と数人の選手に支払い、前半で3点を失うよう求めた。選手はオウンゴールや、ペナルティーキックとなる反則も辞さず、3点を失うようにプレーした。この試合では黒幕は6万ユーロを賭けて、4万8000ユーロをもうけた。

独DPA通信によると、検察当局の調べで、犯罪組織が選手担当の医師や一流ホテルのコックに毒を盛るように働きかけた疑惑も明らかになった。疑惑の渦中にあるドイツのライヒェンベルガー選手は21日、競技場で「ファンに断言したい。私はマフィアと接触したことはない」と訴えた。

八百長行為がここまでエスカレートした要因のひとつが、中国マネーの欧州賭博市場への流入だ。

ドイツでは、公認のサッカー賭博は国営スポーツ賭博組織が運営するものに限定されるが、様々な非合法賭博がインターネットなどを通じて行われている。DPAによると、捜査当局は、こうした闇賭博を取り仕切る中国の犯罪組織と、欧州の黒幕たちが協力を深めている可能性があると見て捜査を進めている。

中国では、サッカー賭博に投じられる資金が年間250億〜1000億ユーロまでふくらんだとの試算もある。ただ、近年は国内リーグで八百長試合が横行してファンのサッカー離れを招き、摘発も厳しくなった。そこで、中国の犯罪組織は不正の場を欧州サッカーに移しつつあるとされる。

ドイツでは2005年に審判による八百長が発覚したことをきっかけに、コンピューターで不自然な賭け金の動きを見張る「早期警戒システム」が導入された。だが、このシステムも海外での違法行為には無力だった。

中国マネーは、試合の進行と並行して賭ける「ライブ賭博」を中心に流れ込んでいると見られる。どちらのチームが次のコーナーキックを取るか、といった試合中のプレーに次々と賭けるものだ。犯罪組織の中には、テレビやネットによる画像中継に秒単位の遅れが生じることを利用し、試合場に送った情報屋から携帯電話で速報を仕入れて、もうける手口も現れている。

連邦刑事警察庁のヨルグ・ツィールケ長官は、違法賭博で「国境消失」が進んでおり、犯罪組織が「欧州で(選手を)買収し、アジアで賭け、ベルリンで配当を受け取る」ような国際ネットワークを築いたと指摘した。

読売新聞 2009/11/29

*1:本来、グラフ化するのはオッズの対数の方が望ましい。今回は実際の数字の大きな変化を表す意味で、あえて生のオッズをグラフ化している。

*2:通常は5%だが取引高によりディスカウントあり。