賭博市場、 Betting Exchange ではどう賭けるのか?

4月になりました。プレミアリーグも佳境に入り、本日は現在リーグ1位と2位の直接対決、頂上決戦『マンチェスター・ユナイテッド v チェルシー 』があります。試合時間は11:45UK、日本時間20:45です。近年はアジア市場を意識してか、特にビッグマッチの試合時間が早くなっているような気がします。で、ちょい気が向いたので、今回はこの試合を例にスポーツベッティングでの賭け方やオッズについて解説してみようかなと思います。

従来のブックメーカーでの賭け方

これは大手オンラインカジノ bwin におけるマンチェスター・ユナイテッド v チェルシー のオッズです。


賭けの対象は90分間の試合における勝敗、すなわちホームチームの勝ちアウェイチームの勝ち引き分けの3つです。「1x2」と表記されることもあり、その場合"1"が「ホームチームの勝ち」、"2"が「アウェイチームの勝ち」、"x"が「引き分け」という意味になります。特に明記されていなくても、左右の並びなら左がホーム、右がアウェイ、上下の並びなら上がホーム、下がアウェイとなることがほとんどです。ただしドローについては並びに決まりがないので注意してください。


もし bwin でアウェイのチェルシー勝利に$100を賭け場合、損益は以下の表の通りになります。

表1 ブックメーカーで賭けたときのペイオフ

結果 金額 オッズ 損益
ホームチーム ( = Man Utd ) 勝利 - - - $100.00
アウェイチーム ( = Chelsea ) 勝利 $100.00 2.70 + $170.00
引き分け - - - $100.00


外れた場合は支払った$100がそのまま損失、当たった場合にはオッズが2.7倍、つまり$100支払って$270払い戻されるので差引$170の儲けとなります。この小数点方式によるオッズ表記は日本では競馬などにも使われているので馴染み深いと思います。他にも分数方式やアメリカ方式などあります。
オッズ 表記 - Google 検索


ちなみに勝敗は90分間内のものでトーナメント戦などにおける延長戦や勝敗をつけるためのPK戦などは考慮されません。カップ戦には引き分けが存在しないわけですから延長やPKも含めた勝敗を賭けの対象にすべきだと思うのですが、あくまで90分間での内容です。おそらくこれは市場が生まれる前、ブックメーカー時代の名残なんじゃないかと思ってます。(延長やPKも考慮すると計算が複雑になり安定したオッズを提供しにくくなる。)しかしながら市場で価格(オッズ)調整がされるようになった現在、需要次第ではそのような賭け方の市場も現れるかもしれません。

賭博市場での賭け方

以下の画像は Betting Exchange 最大手の betfair における match odds market です。上と同様に3つの未知の outcome 、ホームチームの勝ち、アウェイチームの勝ち、引き分けを対象とした market です。



market の言葉どおり、取引は株式など証券市場と同様に板寄せ方式によって行われます。証券取引を頻繁にされている方は、まさに見覚えのある「板」そのものだ、と感じるのではないでしょうか。ここでは未知の outcome が証券、オッズが価格、オッズの下にある価格がボリュームとなります。

左右に並んだ"back"と"lay"はそれぞれ「買い注文」「売り注文」となります。*1賭博市場、Betting Exchange での取引にはブックメーカーと大幅に異なる点があり、それは賭博市場ではこの3つの証券を「売買」できるという点です。従来の賭け方だと、ブックメーカーから一方的に提示された価格でのロングポジションしか選択肢がありませんでしたが、市場に参加することで自分の好みの価格で、ロング、ショートどちらのポジションを持つことも出来るのです。



例を見てみましょう。まず、左側の back 、これは買いを表します。買いは従来のブックメーカーでの賭け方と同じものでペイオフも同様となります。ホームのマンチェスター・ユナイテッド勝利に$100を賭け場合、つまり「証券:home」を購入したときの損益は以下のようになります。

表2 back position のペイオフ

結果 ポジション 価格(オッズ) 損益
ホームチーム ( = Man Utd ) 勝利 $100.00/back 2.86 + $186.00
アウェイチーム ( = Chelsea ) 勝利 - - - $100.00
引き分け - - - $100.00


では、右側の lay 、すなわち売りを行った場合のペイオフはどうなるのでしょう。「証券:home」を$100売ってみた場合を見てみましょう。

表3 lay position のペイオフ

結果 ポジション 価格(オッズ) 損益
ホームチーム ( = Man Utd ) 勝利 $100.00/lay 2.88 - $188.00
アウェイチーム ( = Chelsea ) 勝利 - - + $100.00
引き分け - - + $100.00

ホームチーム勝利の「売り」なので、ホームチーム勝利以外の結果、すなわちアウェイチーム勝利、引き分けどちらでも収益が発生します。チェルシーを応援しているのだけど、マンチェスター・ユナイテッドは強いチームだから引き分けまでは仕方ないという思いからベットしたい方であればチェルシーを買うよりマンチェスター・ユナイテッドを売った方が望むペイオフを得られるかと思います。


このときの取引相手は「証券:home」を@2.88で購入したことになります。買い方のペイオフは購入価格が異なるだけで他は表2と同じです。「ある賭博」について「買い方=賭ける」と「売り方=賭博を受ける」がおり、両者間のお金の流れが逆になると理解すれば分かりやすいですね。

合成ベット

実はこれら3つのアウトカムは独立していないため(ホーム勝利=TRUEのときは必ず、アウェイ勝利=FALSE and 引き分け=FALSE)、back position を合成することにより lay position と同様のペイオフを作り出すことが出来ます。例えば、「証券:away」「証券:draw」をそれぞれ$100、$86のロングという合成ポジションは「証券:home」の$100ショートと同じようなペイオフとなります。

表4 synthetic position のペイオフ

結果 ポジション 価格(オッズ) 損益
ホームチーム ( = Man Utd ) 勝利 - - - $186.00
アウェイチーム ( = Chelsea ) 勝利 $100.00/back 2.86 + $100.00
引き分け $86.00/back 3.30 + $97.80

賭博市場が誕生する以前、「買い」しかできなかったブックメーカーのときから、実はベットを合成することにより擬似的に「売り」も出来ていたのですね。ところが、ブックメーカーから提示される一方的なオッズでは合成する機会はほとんどありませんでした。なぜなら、ブックメーカーの提示するオッズにはブッキーの収益となるような意図的な歪みがつけられていることがほとんどだからです。合成ベットはモロにこの歪みに影響を受けてしまうんですね。表3と表4にある微妙な差もその歪みに起因するものです。合成ペットはまた、合成ポジションの価値と現証券の価値を比較して割高を売り、割安を買う、という裁定機会を生み出します。このあたりの話も今後書いていこうと思っています。

*1:"back"は「実現する」に賭ける、"lay"は「実現しない」に賭けるという意味。