ブックメーカーはどのようにオッズを決めるのか?

ブックメーカーは一体どのようにオッズを決定しているのか?というお話を Freakonomics (ヤバい経済学)でお馴染みの Steven Levitt が考察しているので紹介したいと思います。売春やらドラッグやらをヤバいものを好んで(?)取り扱う Levitt 先生ですから、もちろんギャンブルという分野を見逃すわけもなく、 Sports betting についても鋭い分析を展開しています。飲む打つ買うの三拍子。


WHY ARE GAMBLING MARKETS ORGANISED SO DIFFERENTLY FROM FINANCIAL MARKETS? (PDF)


ちなみに賭博市場や予測市場に関しては Freakonomics Blog に記事を書いている一人である Justin Wolfers もすごいです。なんと、この人の学校の授業では生徒に Sports betting で儲けることができるか競わせたりする。シラバスを見ただけでワクワクするこの授業、ぜひ一度聴講してみたいものです。


マッチングか?確率か?

ブックメーカーがオッズを決めるには以下の2通りの方法があります。


1. マッチング方式
「半丁、駒を揃える」という、賭博の歴史において伝統的な方法です。売りと買いをマッチングさせるわけです。胴元はいわゆる”寺銭”と呼ばれる手数料を徴収しますから、賭博対象の結果いかんにかかわらず安定して手数料収益を得ることができます。ただしブックメーカーは先にオッズを提示するので、参加者の選好を十分に把握している必要があります。もし、この参加者選好の把握が不十分であると思うように張りゴマが一致せず、ブックメーカーは再度オッズを変更したり、時には揃わない部分を自身で肩代わりする(賭けに参加している)状態となります。


日本の競馬などで使用される pool や perimutuel と呼ばれる方法も同様にマッチング方式といえますが、オッズはベッティングを締め切った後、張りゴマを一致させるように事後的に決定されます。よって、確実に全てのベットをマッチングさせることができ、胴元が損をする可能性はゼロです。参加者の立場から見ると、オッズを見てベットできるのは最後の参加者のみ、その他ほとんどの参加者はオッズが分からない状態でベットすることになります。



2. 確率方式
賭博対象の確率の逆数をそのままオッズとする方法です。この場合、両サイドの張りゴマは必ずしも合いません。ルーレットで言えば、お客さん全員が赤にベットしているような状況もありえます。合わない部分はブックメーカー自身が賭けをしていることになります。しかし、仮に算出された確率が正しいとすればブッキー自身は手数料を取られないため期待値はゼロ、つまり短期的には賭けに参加してリスクを取っているように見えても長期的には大数の法則がそのリスクを吸収してくれるわけです。この方式には、確率から手数料分を割り引いたオッズを提示することで手数料を参加者の目から隠せる、というメリットがあります。確率が既知のカジノゲームはこちらの手法が主流ですね。


しかしながら、ブックメーカーはスポーツの試合の結果の正しい確率などどう算出するのでしょう?八百長でも仕込まない限り、100%正しい結果を知りうるのは不可能です。実は必ずしも100%正しい確率を必要としていません。なぜならば、100%正しくなくとも、参加者より正しい精度を持つ確率ならばそれで正のリターンを上げることができるからです。逆もまた真ですが。





では、ブックメーカーは一体どちらの方法でオッズを決めているのでしょうか?参加者の選好にバイアスがなくブッキーと同等の精度で将来予測するならば、マッチング方式と確率方式のどちらも同じオッズとなり、ブックメーカーの利益も同じとなります。しかし、もし参加者の選好にバイアスがあるとするならば、ブックメーカーマッチング方式と確率方式の間にある利益を最大化する最適なオッズを選択することで、そのバイアスを exploit することができます。


ブックメーカーは将来予測が一番上手

果たして、Levitt 先生の実証の結果、参加者の選好にはバイアスがあり、ブックメーカーはこれを利用することにより単純にマッチング方式オッズで得ることができる収益より2割増しの利益を得ていることが分かります。


しかもブックメーカーのしたたかさはそれだけに留まりません。マッチング方式ではないということは、同時に、ブックメーカーより上手に将来予測をすることができれば賭博市場で彼らを出し抜くことができる、ということでもあります。そういった彼らの存在を考慮して、ブックメーカーは利益を深追いせず確率方式に偏らないよう制限する、若しくは彼らを雇ってしまう、と Levitt 先生は結論付けています。かくしてブックメーカーは最高最強の将来予測ができる主体となるわけですね。




と、大変面白いペーパーで手法も勉強になりました。同様の分析を参加者同士が売り買いでオッズを決定している betting exchange のデータで行ったらどうなるのか気になるところです。(当時はまだ betting exchange がそれほど盛んでなかった。)今年はシコシコとデータを収集しているので、それを使った検証結果がどうなるか楽しみです。