オッズから分かること〜オッズの歪みとインプライド・ゴール

前回のエントリで書き足りなかったことを補足的に。

オッズの歪みとは?

前回触れた「オッズの歪み」、これは一体何かというと全てのオッズの逆数の合計です。この合計が意味するのは「どの結果になっても同じキャッシュフローがとなるようにベットしたときの損益」です。どの結果になっても同じ金額の損益がある、ということはリスクフリーでのリターンですから基本的にゼロにならなければなりません。もしノーリスクでプラスの収益があれば皆それに飛びつき裁定機会は消失してしまう「はず」です。あえてプラスの収益と表現しましたが、ギャンブルは金銭面においては血で血を洗うゼロサムゲーム、誰かのプラスは誰かのマイナスに他なりません。
表1 オッズの逆数をベットした場合のペイオフ(back position)

結果 ポジション 価格(オッズ) 損益
ホーム勝利 \frac1{Odds_1} / back Odds_1 3-3\Bigsum\frac1{Odds_n}
アウェイ勝利 \frac1{Odds_2} / back Odds_2 3-3\Bigsum\frac1{Odds_n}
引き分け \frac1{Odds_3} / back Odds_3 3-3\Bigsum\frac1{Odds_n}
  • backのケースでは、\Bigsum\frac1{Odds_n}<1 ならばベッターにプラス、\Bigsum\frac1{Odds_n}>1 ならばブッキーにプラスだと分かる。
  • \Bigsum\frac1{Odds_n}=1 のとき、アービトラージフリー、すなわちオッズに歪みがない。*1


ベッターのプラス=ブッキーのマイナスになる歪み、これは多少のラグがあれど裁定機会は確実に消化されます。ふた昔ほど前にはネットワークを駆使してそれぞれのブッキーが提供する異なるオッズから裁定機会を拾い出して稼いでいた arbs もいたようですが、携帯電話の登場で裁定機会は激減したそうです。また、現在ではインターネットで情報収集するだけでなく、裁定取引スクリプトすら組める状況ですからチャンスの消失速度は益々速まっています。また、当然ながらブッキーにとってのマイナスですから、ブッキー自身がその歪みを解消すべくオッズを変更します。


他方、ベッターのマイナス=になる歪み、こちらの裁定機会は消化されにくいです。ブッキーにとってはプラスなのでこの不利なオッズを許容するベッターがいる限り、自らは動こうとはしません。あまりに劣悪なオッズならば他のブッキーに流れてしまいますが、多少のオッズの違いは気にしないというベッターの方が圧倒的に多いという状況は今も昔もあまり変わりません。そしてブッキーは「ベッターがどの程度の歪みまで許容してくれるのか」を、つまり歪みが売上に与える影響を定量的に把握しています。かくして、ベッター全員が合理的に行動すれば消失するはずの裁定機会は消化されずに残ることが多く、効率的なオッズは賭博市場の登場まで待たなければなりませんでした。ただし、市場も万全ではありません。取引が盛んに行われている市場であるほど歪みは解消されますが、逆に商いが薄い市場ではブッキー以上にひどい歪みが残っていたりします。

インプライド・ゴール

インプライド・ゴールとはオッズに内在するゴール=得点です。オッズが期待しているゴールと言い換えても良いかもしれません。ちなみに、"odds distortion" や "implied goals" とかそのほか諸々、このブログに登場する専門用語的な語句の中には私が適当に作ったものも多いのであしからず。適当に新しい言葉作るの好きなんだよね。「言葉は生き物」派なので誤用とか転用とか大好きです。


で、閑話休題、一般にサッカーの得点はポアソン分布に従うと言われています。よって、あるチームの平均得点が分かれば、得点=0点の確率はxx%、得点=1点の確率xx%と、各々の得点についてそれが起こりうる確率を得ることが出来ます。そして各得点の確率が分かれば、そこから勝敗の確率を得ることが出来ます。


式1 平均得点=Ave点のチームがGoal点を決める確率
P(Goal)=\frac{e^{-Ave}Ave^{Goal}}{Goal!}


また、オッズからみる日本のGL勝敗予想に書いたとおり、オッズは確率の逆数であり、確率はオッズの逆数です。オッズが与えられたとき、そのオッズの裏には勝敗の確率が潜んでいるわけですが、この勝敗の確率を介してオッズと平均得点が結びつくわけです。*2この勝敗確率から逆算して算出された平均ゴールがオッズに黙示されているゴール、すなわちインプライド・ゴールとなるわけです。


サッカーの賭博市場において試合を予測とは、すなわち平均ゴールの予測となります。ブックメーカーはベッターより、より正確な平均ゴールを予測することで利益を生み出そうとし、市場では各々平均ゴール予測に基づいて取引により価格(=オッズ)が決まるということになります。

*1:ここからオッズ・パリティが導き出される。e.g. \frac1{Odds_h}=1-\frac1{Odds_a}-\frac1{Odds_d}

*2:ただし、オッズが歪んでいると勝敗の確率も歪んでしまうことに注意しなければならない。