2010FIFAワールドカップ 〜 予選全48試合のオッズ一覧 @0514

予備登録リスト公表=日本は30人―サッカー〔W杯関連〕 - Yahoo!スポーツ×スポーツナビ - 2010 FIFA ワールドカップ

いよいよワールドカップ開催まで1ヶ月を切りました。昨日、出場国すべての予備登録リストが発表されたので、それを踏まえた現状のオッズをまとめておきます。

表の見方

  1. オッズの下段にある括弧内の数字はオッズの逆数=賭博市場の考える確率です。
  2. チームの下段にある括弧内の数字はインプライド・ゴールといい、オッズに内在する平均ゴール数です。*1
  3. dist.はオッズの歪みを表し、100に近いほどバランスの取れたオッズであると言えます。

グループリーグ全48試合

date home team away team home draw away dist.
6/11 南アフリカ
( 1.0 )
メキシコ
( 1.1 )
3.10
( 32.26% )
3.30
( 30.30% )
2.73
( 36.63% )
99.19
6/12 ウルグアイ
( 0.8 )
フランス
( 1.3 )
4.33
( 23.09% )
3.40
( 29.41% )
2.05
( 48.78% )
101.28
6/12 アルゼンチン
( 1.6 )
ナイジェリア
( 0.7 )
1.68
( 59.52% )
4.09
( 24.45% )
6.35
( 15.75% )
99.72
6/12 韓国
( 0.9 )
ギリシャ
( 1.1 )
3.40
( 29.41% )
3.25
( 30.77% )
2.40
( 41.67% )
101.85
6/13 イングランド
( 1.8 )
アメリ
( 0.7 )
1.60
( 62.50% )
4.41
( 22.68% )
7.00
( 14.29% )
99.47
6/13 アルジェリア
( 0.9 )
スロベニア
( 1.2 )
3.67
( 27.25% )
3.29
( 30.40% )
2.35
( 42.55% )
100.20
6/13 ドイツ
( 1.7 )
オーストラリア
( 0.6 )
1.58
( 63.29% )
4.32
( 23.15% )
7.69
( 13.00% )
99.44
6/14 セルビア
( 1.1 )
ガーナ
( 0.9 )
2.40
( 41.67% )
3.30
( 30.30% )
3.40
( 29.41% )
101.38
6/14 オランダ
( 1.5 )
デンマーク
( 0.7 )
1.80
( 55.56% )
3.77
( 26.53% )
5.55
( 18.02% )
100.11
6/14 日本
( 0.9 )
カメルーン
( 1.2 )
3.71
( 26.95% )
3.31
( 30.21% )
2.22
( 45.05% )
102.21
6/15 イタリア
( 1.2 )
パラグアイ
( 0.7 )
1.96
( 51.02% )
3.40
( 29.41% )
4.75
( 21.05% )
101.48
6/15 ニュージーランド
( 0.5 )
スロバキア
( 1.7 )
9.68
( 10.33% )
4.42
( 22.62% )
1.50
( 66.67% )
99.62
6/15 コートジボワール
( 1.0 )
ポルトガル
( 1.1 )
3.08
( 32.47% )
3.33
( 30.03% )
2.65
( 37.74% )
100.24
6/16 ブラジル
( 2.9 )
北朝鮮
( 0.4 )
1.13
( 88.50% )
10.20
( 9.80% )
34.00
( 2.94% )
101.24
6/16 ホンジュラス
( 0.7 )
チリ
( 1.6 )
6.05
( 16.53% )
4.10
( 24.39% )
1.67
( 59.88% )
100.80
6/16 スペイン
( 2.0 )
スイス
( 0.5 )
1.37
( 72.99% )
5.00
( 20.00% )
12.00
( 8.33% )
101.32
6/17 南アフリカ
( 1.0 )
ウルグアイ
( 1.2 )
3.10
( 32.26% )
3.30
( 30.30% )
2.35
( 42.55% )
105.11
6/17 アルゼンチン
( 2.0 )
韓国
( 0.6 )
1.38
( 72.46% )
4.75
( 21.05% )
10.00
( 10.00% )
103.51
6/17 ギリシャ
( 1.0 )
ナイジェリア
( 1.1 )
3.00
( 33.33% )
3.25
( 30.77% )
2.50
( 40.00% )
104.10
6/18 フランス
( 1.2 )
メキシコ
( 0.7 )
2.00
( 50.00% )
3.30
( 30.30% )
4.50
( 22.22% )
102.52
6/18 ドイツ
( 1.4 )
セルビア
( 0.8 )
1.85
( 54.05% )
3.50
( 28.57% )
4.75
( 21.05% )
103.67
6/18 スロベニア
( 1.0 )
アメリ
( 1.2 )
3.20
( 31.25% )
3.30
( 30.30% )
2.35
( 42.55% )
104.10
6/19 イングランド
( 2.0 )
アルジェリア
( 0.5 )
1.33
( 75.19% )
5.50
( 18.18% )
12.50
( 8.00% )
101.37
6/19 オランダ
( 1.7 )
日本
( 0.6 )
1.53
( 65.36% )
4.33
( 23.09% )
8.00
( 12.50% )
100.95
6/19 ガーナ
( 1.1 )
オーストラリア
( 0.9 )
2.40
( 41.67% )
3.30
( 30.30% )
3.30
( 30.30% )
102.27
6/20 カメルーン
( 1.1 )
デンマーク
( 1.0 )
2.60
( 38.46% )
3.30
( 30.30% )
2.90
( 34.48% )
103.24
6/20 スロバキア
( 0.8 )
パラグアイ
( 1.2 )
3.90
( 25.64% )
3.30
( 30.30% )
2.20
( 45.45% )
101.39
6/20 イタリア
( 2.7 )
ニュージーランド
( 0.5 )
1.18
( 84.75% )
8.25
( 12.12% )
22.00
( 4.55% )
101.42
6/21 ブラジル
( 1.5 )
コートジボワール
( 0.8 )
1.75
( 57.14% )
3.80
( 26.32% )
5.00
( 20.00% )
103.46
6/21 ポルトガル
( 2.5 )
北朝鮮
( 0.5 )
1.20
( 83.33% )
7.25
( 13.79% )
18.00
( 5.56% )
102.68
6/21 チリ
( 1.2 )
スイス
( 1.0 )
2.25
( 44.44% )
3.30
( 30.30% )
3.25
( 30.77% )
105.51
6/22 スペイン
( 2.4 )
ホンジュラス
( 0.5 )
1.20
( 83.33% )
7.00
( 14.29% )
16.50
( 6.06% )
103.68
6/22 フランス
( 1.4 )
南アフリカ
( 0.7 )
1.85
( 54.05% )
3.55
( 28.17% )
5.15
( 19.42% )
101.64
6/22 メキシコ
( 1.1 )
ウルグアイ
( 1.1 )
2.65
( 37.74% )
3.30
( 30.30% )
2.65
( 37.74% )
105.78
6/23 ギリシャ
( 0.7 )
アルゼンチン
( 1.5 )
5.75
( 17.39% )
3.90
( 25.64% )
1.67
( 59.88% )
102.91
6/23 ナイジェリア
( 1.3 )
韓国
( 0.8 )
2.10
( 47.62% )
3.35
( 29.85% )
4.30
( 23.26% )
100.73
6/23 スロベニア
( 0.6 )
イングランド
( 1.7 )
8.00
( 12.50% )
4.20
( 23.81% )
1.50
( 66.67% )
102.98
6/23 アメリ
( 1.4 )
アルジェリア
( 0.8 )
1.80
( 55.56% )
3.50
( 28.57% )
4.75
( 21.05% )
105.18
6/24 オーストラリア
( 0.9 )
セルビア
( 1.2 )
3.45
( 28.99% )
3.30
( 30.30% )
2.25
( 44.44% )
103.73
6/24 ガーナ
( 0.8 )
ドイツ
( 1.4 )
4.80
( 20.83% )
3.51
( 28.49% )
1.80
( 55.56% )
104.88
6/24 パラグアイ
( 1.9 )
ニュージーランド
( 0.5 )
1.40
( 71.43% )
5.00
( 20.00% )
11.00
( 9.09% )
100.52
6/24 スロバキア
( 0.6 )
イタリア
( 1.5 )
6.50
( 15.38% )
3.75
( 26.67% )
1.60
( 62.50% )
104.55
6/25 カメルーン
( 0.8 )
オランダ
( 1.4 )
4.75
( 21.05% )
3.60
( 27.78% )
1.90
( 52.63% )
101.46
6/25 デンマーク
( 1.2 )
日本
( 0.9 )
2.20
( 45.45% )
3.30
( 30.30% )
3.60
( 27.78% )
103.53
6/25 北朝鮮
( 0.5 )
コートジボワール
( 2.4 )
17.00
( 5.88% )
7.00
( 14.29% )
1.22
( 81.97% )
102.14
6/25 ポルトガル
( 0.8 )
ブラジル
( 1.4 )
4.50
( 22.22% )
3.60
( 27.78% )
1.90
( 52.63% )
102.63
6/26 スイス
( 1.4 )
ホンジュラス
( 0.7 )
1.85
( 54.05% )
3.60
( 27.78% )
5.15
( 19.42% )
101.25
6/26 チリ
( 0.7 )
スペイン
( 1.7 )
6.50
( 15.38% )
4.00
( 25.00% )
1.67
( 59.88% )
100.26

日本は3試合すべてにおいてアンダードッグ*2となっていますが、勝つ可能性がゼロではありません。ぜひとも岡田監督には日本代表の底力を見せ付けて賭博市場の期待を裏切って欲しいものです。

*1:現代サッカーにおける1試合の平均ゴールは約2.5、つまり平均的なチームは90分の間に1ゴール強を決める。

*2:勝負事で劣勢の方を underdog と呼ぶ。優勢は top dog とも言うが favorite が一般的である。

宝くじは愚か者の税金?

「宝くじとは愚かさに対する税金でしかない。」

この言葉、最近でも twitter で何度か見かけました。(こんな感じ) 誰の言葉だろうかとググってみるとヴォルテールという人で、ウィキペディアによると「啓蒙主義を代表するフランスの多才な哲学者」だそうです。18世紀の言葉が21世紀になっても人気があるんですね。では、本当に宝くじは愚かさ、頭の悪さに対する税金なのでしょうか?

愚かと考える根拠、期待値

この言葉を語る人に理由を問うと、返ってくる答えは大抵同じだと思います。期待値がネガティブであると。

確率的に計算すれば、期待値が、50%にも行かないような商品  140円の価値しかないのに、300円の値段がするものを、年末の忙しいときに、わざわざ、何十分も、並んで買うというのは、私には、信じられない狂気の沙汰に思える。

TABLOG:宝くじは「無知への罰金」じゃないでしょうか - livedoor Blog(ブログ)

そのとおりです。特に日本の宝くじを考えるとそのハウスエッジ*1は50%を上回る鬼設定です。期待値で考えれば金をドブに捨てる行為でしょう。でも、ちょっと待ってください。保険を考えて見ましょう。多くの人が何らかの保険を購入しています。そして保険の期待値はネガティブです。宝くじと同様、保険に加入するものは愚かであると言うのでしょうか?こういう答えが返ってくるかもしれません。保険にはコストを支払っても得ることのできる効用がある、と。まさにその通り、効用の対価は各々の選好によります

宝くじは当たる確率を誰でも簡単?に計算できますよね。計算すれば、宝くじが「合理的にみて割りに合わない」ということは明らかです。それを承知の上であえて「楽しみのために買う」という選択は、ある意味で合理的です。何故なら、宝くじで平均して損をするのはわかっているのですが、万が一当たったらと「期待」の「楽しみの対価」と考えて、買っているわけです。

http://www.e-jinsei.jp/article/13234150.html

つまり、この2つの意見の違いはコストに対する価値観の違いです。10億円の資産を持っている人にとって賞金3億円の宝くじを購入して得れる効用はゼロ以下でしょうが、年収200万、貯金ゼロという人にとっては万が一の賞金3億円を期待する効用は160円以上になり得ます。また、10億円の前者は万が一のケガや病気で掛かる入院費用100万円に備えて期待値がネガティブである保険を購入する効用はゼロ以下でしょうが、200万の後者にとっての効用は付加保険料以上になり得ます。有り体に言えば、宝くじの購入者を愚か者と馬鹿にする行為は他人の価値観を馬鹿にしている行為と同じなのです。

      • -

ところでヴォルテール信者は宝くじの期待値がポジティブならばどうするのでしょうか?実際にそういうこともあるんですよ。例えば賞金がキャリーオーバーされるタイプでは当選者がしばらく出ず、期待値がポジティブになることもあります。300円のくじの期待値は310円。さあ、どうします?実際、宝くじ愚か教・教祖ヴォルテールは偶然にもそんな機会に恵まれています。そのとき彼はシンジケートを組み資金調達し、そのくじを全部買い占めたそうです。裁判沙汰などのすったもんだがありましたが、結果的に彼は多額の賞金を手にします。出自は良いもののそれまで決して裕福ではなかった彼の今までの生活は一転、余裕があるものとなります。この奇貨が彼の哲学へ没頭できる環境作りの一端を担ったことは想像に難くありません。なんとも興味深い話ですね。

さて、買い占めれる額ならば良いのですが、例えば年末ジャンボの売上は平成20年度で4,090億円だそうです。シンジケートを組んで4000億からの資金を集めることが出来る人はそうそういません。期待値はポジティブだが買占めはできない、このような状況でいくら宝くじを買えば良いのか。このあたりは話し出したら長くなるのでまたの機会にしようと思います。

投機、ギャンブルは悪という価値観

前回書きましたが、ギャンブルとは投機であり、投機とはリスクテイクに他なりません。デリバティブ市場はカジノです。原証券に対してインサイダー情報を持っていれば別ですが、原証券の価格推移はランダムであり予測不可能であるというのが現在の前提である以上、全てのデリバティブの期待値は売買手数料の分だけ期待値がネガティブになります。単純にコール・オプションのロングを考えてみてください。なんだか宝くじのペイオフと似ていませんか?*2

私は様々な国のカジノに行きましたが、ギャンブルは素晴らしいという文化はどの国にもありませんでした。歴史にも例がありません。ほとんどの宗教においても、賭け事は非生産的行為であり社会に対する害であると見なされています。*3つまり古今東西、それが普遍的事実であるかのように、ギャンブルは悪とされてきたと言えます。だからこそヴォルテールの言葉は3世紀を経てもなお、好まれ、語り継がれているのでしょう。たとえ社会の害悪であるとしても、パターナリスティックに啓蒙/規制すれば全て丸く収まるという考え方には疑問を感じますが、それ以前に果たしてこのギャンブル=スピキュレイション(投機)=リスクテイクは害悪なのでしょうか?

悪とされて来た一方で、ギャンブルは人を魅了します。つまり人は好んでリスクテイクをする。私は人に限らずこの世のあらゆる生物は本質的には risk lover ではないのか、という仮説を持っています。これについてもまた機会があれば書こうと思いますが、ここで言いたい事は、文化/時代を問わず、あれほど禁止されてきたギャンブルが未だ無くならないという渾然たる事実です。多くの人が望み、淘汰されないで残ってきたものが果たして害悪なのだろうか、という疑問が生じます。

現在の私のスタンスはギャンブルは害悪ではないというものですが、それはあくまで私の価値観です。ギャンブル=悪という価値観を否定することはできません。結局のところ、ヴォルテールの言葉は、効用に対するコスト云々より、ギャンブルや投機に対する価値観により名言にも戯言にもなる非常に不安定な内容であると言えるのではないでしょうか。

*1:胴元が掛金合計から差引く割合。胴元の収益となる。

*2:当然、両者は別物だが、このようなペイオフはより好まれやすい。結果、需要が多くなるために価格は相対的に高くなる。

*3:これはギャンブルに限ったことではなく、形のない財を商うサービス業は全般的にそういう目で見られがちだが。

「予測市場」とは何か?

私なりの説明です。

予測市場とはどんな市場?

予測市場とは、「未知(=結果の分からない将来の出来事)」対象に作られた予測を取引する市場です。それぞれの予測について"back"(=実現する)と"lay"(=実現しない)の2つがあり、この2つが折り合うように価格(オッズ)が調整されます。そして、予測の種類は全ての結果を網羅したいる必要があります。つまり予測全種類の back position (もしくは全種類の lay position )を持てば必ず予測のどれかが的中していることになります。任意の「未知」を原証券としたデリバティブ市場の一種であると言えます。

当ブログでは予測市場という言葉を使わず「賭博市場」という言葉を Betting Exchange の日本語訳として使っています。Betting Exchange は証券取引所のことでまさに予測市場そのものなのですが、予測市場の中にはリアルマネー(=実際のお金)を使用せずプレイマネー(=架空のお金やポイント)を使用している市場もあり、そのプレイマネー予測市場との区別をつける上で賭博市場という異なる言葉を使用しています。このプレイマネー予測市場についてはまたいずれ書こうと思っていますが、様々な意見があるものの*1私個人的にはリアルマネー予測市場=賭博市場の方があらゆる面において優れていると考えています

これら市場の関係は、

賭博市場、プレイマネー予測市場予測市場デリバティブ市場

と表されます。

市場を利用する三者

さて、デリバティブ市場に参加するのは以下の三者であるとされています。

1.リスクを回避したい人(risk hedger)

    • 将来どうなるか分からないという不安を、どのような結果になっても変わらない、という状況に変えたい人々です。通常、プレミアムを支払って他の誰かにリスクを肩代わりしてもらいます。

2.リスクを請け負う人(risk taker)

    • 将来どうなるか分からないというリスクを請け負います。通常、その代償としてリスクプレミアムを受け取ります。

3.価格を調整する人(price adjuster)

    • プレミアムを査定/調整する人々です。プレミアムがパリティから離れたときなど、ノーリスクで益を出す取引(裁定取引)を行います。結果、プレミアムはあるべき水準に戻ります。


三者を表す言葉、わざと変えました。通常、デリバティブ市場を構成する三者は risk hedger, speculator, arbitrageur であると紹介されます。これは単語に根付いたイメージに対するささやかな抵抗です。本来、市場を構成するこの三者に優劣はありません。しかしながら、リスクヘッジという価値は必要だとヘッジャーに対してはうんうんと頷く割に、スペキュレイターやアーブに対して冷たい目が向けられているように感じているのは私だけの穿った見方ではないと思います。投機、賭ける、あまり良い意味に使われることはありません。なぜでしょう?

ここは私個人の穿った見方かもしれませんが、これはマーケットがあまりにも発達しすぎて、取引がさも、例えば自動販売機に100円玉を入れるとジュースが出てくるように、1対システム(もしくは神)というような形に見えやすくなってしまったからではないでしょうか。取引は常に相手あってのもの、この値で売りたい=この値で買いたい、という状況で始めて両者に取引が生まれるのです。この市場における流動性の重要度を理解していれば、リスクヘッジの価値は認めてもリスクテイクの価値は認めない、という矛盾した発想は生まれないはずです。

また、リスクテイクとは「プレミアム分が儲かるから投資しなさいよ」ということではありません。「儲かるか儲からないか分からないものに賭ける」ということです。ギャンブルであり投機です。失敗したらプレミアム分など軽く吹っ飛びます。だからこそヘッジャーはプレミアムを支払うのです。安全なリスクテイクなど存在し得ないのです。*2そして、失敗して無くなっても良い範囲でリスクテイクするか、もしくは死を覚悟してリスクテイクするか、それとも全くリスクテイクしないか、取るリスクの大きさは個人の各々の選好によって決めることです。どれが正しいとか間違いだとか、どれが善だとか悪だということはありません。ハイリスクを取ることが愚かではないように全くリスクテイクしないことも悪ではないのです。

予測市場リスクヘッジはできないのか?

wikipedia日本語版の「予測市場」の項目は以下のように説明しています。(強調は私によるもの。)

本来先物は、価格変動の影響を避けるための手段(リスクヘッジ)として利用されるが、予測市場においては、価格変動を利用して利益を得るスペキュレーション(投機)が唯一の取引動機であり、以下のような場合に、利益を得ることが出来る。

予測市場 - Wikipedia

本当でしょうか?予測市場デリバティブ市場の一種であると言いました。ならば、デリバティブ市場と同様にリスクプレミアムを介してリスクヘッジもリスクテイクも出来るはずです。例を挙げてみましょう。

当ブログで取り上げているサッカー賭博市場は「サッカーの試合の結果」という「未知」を原証券として取り扱うデリバティブ市場です。ここで浦和レッズを運営する会社の立場を考えて見ましょう。この株式会社浦和レッズ*3はリーグ優勝により増収が見込めますが、リーグ降格の際には減収となります。サッカーの試合の結果という「未知」に対して収入が左右されるわけです。ここでもし株式会社浦和レッズが収入を安定させたいと考えたとき、浦和レッズの「負け」に賭けることによって試合の結果いかんに関わらず、収入を安定させることができます。つまりリスクをヘッジしたわけです。

ヘッジという取引動機が多いか少ないかは「未知」という原証券の種類に依ります。「サイコロの目が奇数が偶数か」という未知を本気でヘッジすべき人は極めて少ないでしょうが、「今年は冷夏であるか」という未知をヘッジしたい人は多くいます。デリバティブ市場は完全な賭博市場ですが、そういった理由で存在が認められています。*4そして予測市場も扱う商品、原証券によっては同様の市場になりえます。

世論調査やアンケートが目的ではないし、ましてや的中する予言でもない

予測市場は未知(=結果の分からない将来の出来事)というリスクを取引する市場です。そしてその市場の目的は上に示したデリバティブ市場と同様の3つです。市場の値段をもってしてアンケートや世論調査の代わりとするのも結構ですが、それはTOPIX先物価格が景気動向に関する世論調査という程度の意味にしかなりえません。適切な方法で実際にアンケートや世論調査を行った方がよほど効率良く、そして精度の高い結果を得ることが出来ます。*5

また、「予測市場はみんなの力を合わせて未来を予測する」などというバカげた発想があります。当たり前ですが、そんなことは不可能です。ただし、予測市場の予測精度は他の何よりも高いものであることはありえます。その精度は市場の効率性に依ります。まだ強いインサイダー取引規制などが存在しない予測市場では、デリバティブ市場よりその効率性はよりストロングであると考えられます。先日ハリウッドでのアカデミー賞作品賞予測市場が、当初有力視されていたアバターではなく実際に受賞したハートロッカーである、と見事に予測的中させましたが、これはとりもなおさずインサイダー取引によるものであり、アカデミー賞の情報は数日前から漏れるという証左に他なりません。

タレブの言うように多くの人々にとって確率はほぼ0であった9.11の悲劇も実行したテロリストから見れば確率1の出来事、インサイダー情報は予言ではなく答えなのです。市場を動かす力である金*6を利用してどうにかこれらインサイダー情報を有効活用できないか、という発想が予測市場であり暗殺市場(wikipedia)やテロ予測市場という考えにつながっています。このような発想は、既にインサイダー取引を規制する方向にコンセンサスができあがってしまったデリバティブ市場では持ち得ないものであり、インサイダー情報の取り扱い(規制する/規制しない)は、今後の予測市場にとって最も重要なファクターとなっています。

*1:リアルマネーは関係ないという意見⇒PDF

*2:同種のリスクを集め、大数の法則でカバーしたプレミアム収入を狙うのがカジノや保険。

*3:もちろん、正式な名前ではない。

*4:デリバティブ市場と賭博罪についてはここが詳しい⇒PDF

*5:アンケートや世論調査にとって重要なのはサンプリングの方法。

*6:インセンティブの本質は見栄だと思うのだが、それはまた別の機会に。

賭博市場、 Betting Exchange での賭け方 その2 〜 試合中に賭けるイン・プレイ・ベット

スポーツの試合を対象とする賭博市場にはいろいろな賭け方があります。今回はその中で最も人気のある賭け方、イン・プレイ・ベット(in-play betting)を紹介したいと思います。

刻々と変化するオッズ

インプレイベットとは試合中に行う賭けのことです。呼称は様々で他にもイン・ランニング・ベット(in-running betting)、ライブベットと呼ばれたりもします。もちろん、試合中なので状況は刻々と変化しますし、それに応じてオッズも変化します。特にサッカーのような攻守の入れ替わりが激しいスポーツはオッズも激しく変動します。以下の図は、昨日行われたエル・クラシコ、Real Madrid v Barcelona のオッズの時系列推移です。試合前の変化に比べて、試合中の変化の激しさが分かると思います。(しかし、最近のクラシコは「バルサがレアルをボコる」という構図ですな。)

図1 Real Madrid v Barcelona オッズの時系列推移

折れ線はそれぞれのオッズ、バーは累積出来高を表しています。バーの色は試合前と試合中とで変化させてあります。



試合中の動きももう少し細かく見てみましょう。試合の中で、得点やレッドカードによるプレイヤーが退場など、両チームにとってその後の戦略/戦術に大きな影響を与えるイベントが発生した場合には一旦市場はサスペンド(一時中断)されます。その際、約定していない注文はすべてキャンセルされます。市場が再開するとベッターは各々新規に注文を出し、徐々に板が寄せられていきます。イベントが多く発生した例としてチャンピオンズリーグ準々決勝 Arsenal v Barcelona 1st leg を例にとり、試合中におけるオッズと発生したイベントの時系列を見てみましょう。

図2 Arsenal v Barcelona 試合中のオッズの推移

前半はいくつかのイエローカードが出たのものの、結局両チームとも得点がなく0-0で終了します。両チームとも時間とともに期待ゴールは減少していきますので、ゆるやかにhomeとawayの価格は下がり(オッズが大きくなる)、drawの価格は上昇(オッズが小さくなる)していきます。

後半はイベント盛り沢山でした。46分、バルセロナイブラヒモビッチがゴールします。直後オッズが大きく変化しているのがわかります。バルサの勝利が濃厚となってきますから、awayの価格は急上昇しhomeとdrawの価格は急落しています。(drawのゼロはまだ板が整っていないための一時的な数字。)そして、59分、ズラタンの2発目が決まると更にオッズは変動、homeとdrawの価格はグラフからはみ出してしまいます。*1しかし、69分のウォルコットのゴール、84分、プジョールのファールによるPKで試合は同点へと引き戻されます。しかしながら、その時点での残り時間はわずか5分、期待ゴールは大幅に減少しています。よって同じ同点という状況でも試合開始直後とは異なりdrawの価値が大幅に高まり、homeとawayの価値はもうそれほどありません。

このように、試合中のベットはオッズの激しい変化に対応して行わなければなりません。

大商いの理由

図1の出来高を見ると、このインプレイベット、通常の試合前のベットよりかなり人気があることが分かります。賭博市場運営者の収益は払い戻し x コミッション率*2ですから、出来高はそのまま収益を表し、インプレイベットは今や賭博市場経営者にとって大きな収入源となっております。イベント発生時に即座に市場をサスペンドできるよう環境を整える必要があり通常のベットより運用コスト高ではありますが、ある程度の市場規模(=コストをペイできる規模)になるとインプレイベット市場が開かれます。


実際に試合を見ながら変化し続ける状況を考慮してベットする、という行為は確かに試合観戦をより一層エキサイティングなものにするかもしれません。その人気に目をつけてタイムラグ作ってイカサマをする、なんて事件もどこかでありました。しかしながら、私は単純に人気だけがこのインプレイベットの出来高を説明できるとは考えていません。というのも、インプレイベットを利用することにより他の市場との様々な裁定機会が発生するからです。これはまた、他の市場の話などで折に触れていこうと思います。

おまけ

ラグ・イカサマのURLが見つからなかったのでここに引用しておきます。ちなみに実際の賭博市場の情報は早いです。板を見ながら試合を観ていると映像より早く得点が分かってしまうことがあって、試合観戦自体の楽しみが半減してしまうので注意が必要です。

欧州サッカー八百長、中国マネー流入と黒幕暗躍 マフィアの結託で違法賭博が「国境消失」し、八百長行為がエスカレート

今月中旬に欧州サッカーの約200試合を対象とする八百長疑惑が発覚し、過去最大規模の違法サッカー賭博事件として欧州各国に衝撃を広げている。独シュピーゲル誌によると、八百長試合はドイツをはじめ17か国に拡大。背景には中国マネーの流入や、欧州とアジアのマフィア同士の結託といった組織犯罪の国際化があったと見られ、捜査当局が本格捜査に乗り出した。

独紙ウェルト日曜版(22日付)によると、八百長工作の黒幕とされるのは、ベルリン在住のトルコやバルカン諸国出身者5人。このグループが他の犯罪組織と共謀し、サッカー選手や監督の買収などを行った。

トルコ3部リーグのある試合では、3万ユーロ(1ユーロ=約130円)を監督と数人の選手に支払い、前半で3点を失うよう求めた。選手はオウンゴールや、ペナルティーキックとなる反則も辞さず、3点を失うようにプレーした。この試合では黒幕は6万ユーロを賭けて、4万8000ユーロをもうけた。

独DPA通信によると、検察当局の調べで、犯罪組織が選手担当の医師や一流ホテルのコックに毒を盛るように働きかけた疑惑も明らかになった。疑惑の渦中にあるドイツのライヒェンベルガー選手は21日、競技場で「ファンに断言したい。私はマフィアと接触したことはない」と訴えた。

八百長行為がここまでエスカレートした要因のひとつが、中国マネーの欧州賭博市場への流入だ。

ドイツでは、公認のサッカー賭博は国営スポーツ賭博組織が運営するものに限定されるが、様々な非合法賭博がインターネットなどを通じて行われている。DPAによると、捜査当局は、こうした闇賭博を取り仕切る中国の犯罪組織と、欧州の黒幕たちが協力を深めている可能性があると見て捜査を進めている。

中国では、サッカー賭博に投じられる資金が年間250億〜1000億ユーロまでふくらんだとの試算もある。ただ、近年は国内リーグで八百長試合が横行してファンのサッカー離れを招き、摘発も厳しくなった。そこで、中国の犯罪組織は不正の場を欧州サッカーに移しつつあるとされる。

ドイツでは2005年に審判による八百長が発覚したことをきっかけに、コンピューターで不自然な賭け金の動きを見張る「早期警戒システム」が導入された。だが、このシステムも海外での違法行為には無力だった。

中国マネーは、試合の進行と並行して賭ける「ライブ賭博」を中心に流れ込んでいると見られる。どちらのチームが次のコーナーキックを取るか、といった試合中のプレーに次々と賭けるものだ。犯罪組織の中には、テレビやネットによる画像中継に秒単位の遅れが生じることを利用し、試合場に送った情報屋から携帯電話で速報を仕入れて、もうける手口も現れている。

連邦刑事警察庁のヨルグ・ツィールケ長官は、違法賭博で「国境消失」が進んでおり、犯罪組織が「欧州で(選手を)買収し、アジアで賭け、ベルリンで配当を受け取る」ような国際ネットワークを築いたと指摘した。

読売新聞 2009/11/29

*1:本来、グラフ化するのはオッズの対数の方が望ましい。今回は実際の数字の大きな変化を表す意味で、あえて生のオッズをグラフ化している。

*2:通常は5%だが取引高によりディスカウントあり。

本田圭佑/CSKAモスクワがチャンピオンズリーグ4強に進む確率

今日明日とチャンピオンズリーグ準々決勝の2ndレグです。日本人にとっての注目はなんと言っても本田圭佑率いるCSKAモスクワ。CSKAは本日(日本時間では明日4/7未明)ホームにてインテルを迎えます。世界の本田、個人的には彼がその活躍をどこまで見せてくれるのか期待しているので「勝ち進んでほしい!」という思いが強いです。

では、賭博市場は本田圭佑チャンピオンズリーグ4強に進む確率をどのくらいに見積もっているのでしょうか?オッズとインプライドゴールで見てみようと思います。

賭博市場の評価

まず、1stレグではこの2チームはどのように評価されていたのでしょうか?以下はインテルがホームだった1stレグ試合直前のオッズとインプライドゴールです。
表1 Inter v CSKA のオッズ Thu, 01 Apr 2010 03:43:19 +0900

back lay implied goal
home (Inter) 1.47 1.48 1.7
away (CSKA) 9.60 10.00 0.5
draw 4.50 4.60
dist. 100.67% 99.31%


オッズにかなりの開きがありますね。インプライドゴールの差も一目瞭然です。モウリーニョ率いるインテルは目下国内リーグトップ、選手層、知名度、資金力、何においても世界有数の強豪クラブチームです。このような一方的なオッズになるのもそう不思議なことではありません。結局、この試合は1-0でインテルがCSKAを下しました。


そして、2ndレグ、今度はモスコーがホームの試合です。16:00現在のオッズはこれ
表2 CSKA v Inter のオッズ Tue, 06 Apr 2010 15:59:38 +0900

back lay implied goal
home (CSKA) 3.55 3.60 0.9
away (Inter) 2.38 2.40 1.2
draw 3.30 3.35
dist. 100.49% 99.30%


1stレグとはびっくりするほど差が縮まっています。サッカーの試合はホームとアウェイで勝率に差があるというのは有名な話で、その差異は統計的にも有意に観測されているのですが、通常ここまで大きくなりません。これはモスコーが人工芝であるということがかなり影響していると推測されます。もちろん、インテルは積極的に点を取りにいくより1点を堅守する戦略をとるであろう、という推測も織り込まれるため、インプライドゴールもあまり大きくはなりにくい傾向にあります。それでも、セビージャ戦のときのオッズも同様にホームのCSKAをかなり評価していた(オッズが低かった)ことを考えると、やはりこれは人工芝によるアドバンテッジだと思われます。

4強に勝ち進む確率

1stレグで敗戦しているCSKAにとって、チャンピオンズリーグ4強に駒を進めるには今日に試合に勝つだけではダメです。「2点差」で勝たなければなりません。ということで、インプライドゴールを元に試合結果を場合分けしてみると、以下のようになります。
表3 準々決勝の結果

  確率
CSKA勝利 24.63%
1-0で延長戦 12.31%
インテル勝利 63.06%


賭博市場、 Betting Exchange ではどう賭けるのか?に書いたとおり、これらオッズは90分間のみを反映したもので、延長戦に関する情報は含まれていません。よって、CSKA 1-0 Interとなり延長戦に入った場合はまた計算しなおさなければなりません。同じ人工芝のスタジアムですから、本戦と同じインプライドゴールで考え*1、同点PK戦のときは50/50と考えれば12%のうち5-6%はCSKA勝利になると考えることが出来ます。そうなるとCSKAがチャンピオンズリーグ4強に勝ち進む確率は約30%という結果になります。



30%、アンダードッグではありますが決して無理な確率ではありません。本田の活躍、期待してます。

*1:もっとも、延長戦ではガラっと戦略が変わるので同じインプライドゴールという前提はいささか乱暴。

オッズから分かること〜オッズの歪みとインプライド・ゴール

前回のエントリで書き足りなかったことを補足的に。

オッズの歪みとは?

前回触れた「オッズの歪み」、これは一体何かというと全てのオッズの逆数の合計です。この合計が意味するのは「どの結果になっても同じキャッシュフローがとなるようにベットしたときの損益」です。どの結果になっても同じ金額の損益がある、ということはリスクフリーでのリターンですから基本的にゼロにならなければなりません。もしノーリスクでプラスの収益があれば皆それに飛びつき裁定機会は消失してしまう「はず」です。あえてプラスの収益と表現しましたが、ギャンブルは金銭面においては血で血を洗うゼロサムゲーム、誰かのプラスは誰かのマイナスに他なりません。
表1 オッズの逆数をベットした場合のペイオフ(back position)

結果 ポジション 価格(オッズ) 損益
ホーム勝利 \frac1{Odds_1} / back Odds_1 3-3\Bigsum\frac1{Odds_n}
アウェイ勝利 \frac1{Odds_2} / back Odds_2 3-3\Bigsum\frac1{Odds_n}
引き分け \frac1{Odds_3} / back Odds_3 3-3\Bigsum\frac1{Odds_n}
  • backのケースでは、\Bigsum\frac1{Odds_n}<1 ならばベッターにプラス、\Bigsum\frac1{Odds_n}>1 ならばブッキーにプラスだと分かる。
  • \Bigsum\frac1{Odds_n}=1 のとき、アービトラージフリー、すなわちオッズに歪みがない。*1


ベッターのプラス=ブッキーのマイナスになる歪み、これは多少のラグがあれど裁定機会は確実に消化されます。ふた昔ほど前にはネットワークを駆使してそれぞれのブッキーが提供する異なるオッズから裁定機会を拾い出して稼いでいた arbs もいたようですが、携帯電話の登場で裁定機会は激減したそうです。また、現在ではインターネットで情報収集するだけでなく、裁定取引スクリプトすら組める状況ですからチャンスの消失速度は益々速まっています。また、当然ながらブッキーにとってのマイナスですから、ブッキー自身がその歪みを解消すべくオッズを変更します。


他方、ベッターのマイナス=になる歪み、こちらの裁定機会は消化されにくいです。ブッキーにとってはプラスなのでこの不利なオッズを許容するベッターがいる限り、自らは動こうとはしません。あまりに劣悪なオッズならば他のブッキーに流れてしまいますが、多少のオッズの違いは気にしないというベッターの方が圧倒的に多いという状況は今も昔もあまり変わりません。そしてブッキーは「ベッターがどの程度の歪みまで許容してくれるのか」を、つまり歪みが売上に与える影響を定量的に把握しています。かくして、ベッター全員が合理的に行動すれば消失するはずの裁定機会は消化されずに残ることが多く、効率的なオッズは賭博市場の登場まで待たなければなりませんでした。ただし、市場も万全ではありません。取引が盛んに行われている市場であるほど歪みは解消されますが、逆に商いが薄い市場ではブッキー以上にひどい歪みが残っていたりします。

インプライド・ゴール

インプライド・ゴールとはオッズに内在するゴール=得点です。オッズが期待しているゴールと言い換えても良いかもしれません。ちなみに、"odds distortion" や "implied goals" とかそのほか諸々、このブログに登場する専門用語的な語句の中には私が適当に作ったものも多いのであしからず。適当に新しい言葉作るの好きなんだよね。「言葉は生き物」派なので誤用とか転用とか大好きです。


で、閑話休題、一般にサッカーの得点はポアソン分布に従うと言われています。よって、あるチームの平均得点が分かれば、得点=0点の確率はxx%、得点=1点の確率xx%と、各々の得点についてそれが起こりうる確率を得ることが出来ます。そして各得点の確率が分かれば、そこから勝敗の確率を得ることが出来ます。


式1 平均得点=Ave点のチームがGoal点を決める確率
P(Goal)=\frac{e^{-Ave}Ave^{Goal}}{Goal!}


また、オッズからみる日本のGL勝敗予想に書いたとおり、オッズは確率の逆数であり、確率はオッズの逆数です。オッズが与えられたとき、そのオッズの裏には勝敗の確率が潜んでいるわけですが、この勝敗の確率を介してオッズと平均得点が結びつくわけです。*2この勝敗確率から逆算して算出された平均ゴールがオッズに黙示されているゴール、すなわちインプライド・ゴールとなるわけです。


サッカーの賭博市場において試合を予測とは、すなわち平均ゴールの予測となります。ブックメーカーはベッターより、より正確な平均ゴールを予測することで利益を生み出そうとし、市場では各々平均ゴール予測に基づいて取引により価格(=オッズ)が決まるということになります。

*1:ここからオッズ・パリティが導き出される。e.g. \frac1{Odds_h}=1-\frac1{Odds_a}-\frac1{Odds_d}

*2:ただし、オッズが歪んでいると勝敗の確率も歪んでしまうことに注意しなければならない。

賭博市場、 Betting Exchange ではどう賭けるのか?

4月になりました。プレミアリーグも佳境に入り、本日は現在リーグ1位と2位の直接対決、頂上決戦『マンチェスター・ユナイテッド v チェルシー 』があります。試合時間は11:45UK、日本時間20:45です。近年はアジア市場を意識してか、特にビッグマッチの試合時間が早くなっているような気がします。で、ちょい気が向いたので、今回はこの試合を例にスポーツベッティングでの賭け方やオッズについて解説してみようかなと思います。

従来のブックメーカーでの賭け方

これは大手オンラインカジノ bwin におけるマンチェスター・ユナイテッド v チェルシー のオッズです。


賭けの対象は90分間の試合における勝敗、すなわちホームチームの勝ちアウェイチームの勝ち引き分けの3つです。「1x2」と表記されることもあり、その場合"1"が「ホームチームの勝ち」、"2"が「アウェイチームの勝ち」、"x"が「引き分け」という意味になります。特に明記されていなくても、左右の並びなら左がホーム、右がアウェイ、上下の並びなら上がホーム、下がアウェイとなることがほとんどです。ただしドローについては並びに決まりがないので注意してください。


もし bwin でアウェイのチェルシー勝利に$100を賭け場合、損益は以下の表の通りになります。

表1 ブックメーカーで賭けたときのペイオフ

結果 金額 オッズ 損益
ホームチーム ( = Man Utd ) 勝利 - - - $100.00
アウェイチーム ( = Chelsea ) 勝利 $100.00 2.70 + $170.00
引き分け - - - $100.00


外れた場合は支払った$100がそのまま損失、当たった場合にはオッズが2.7倍、つまり$100支払って$270払い戻されるので差引$170の儲けとなります。この小数点方式によるオッズ表記は日本では競馬などにも使われているので馴染み深いと思います。他にも分数方式やアメリカ方式などあります。
オッズ 表記 - Google 検索


ちなみに勝敗は90分間内のものでトーナメント戦などにおける延長戦や勝敗をつけるためのPK戦などは考慮されません。カップ戦には引き分けが存在しないわけですから延長やPKも含めた勝敗を賭けの対象にすべきだと思うのですが、あくまで90分間での内容です。おそらくこれは市場が生まれる前、ブックメーカー時代の名残なんじゃないかと思ってます。(延長やPKも考慮すると計算が複雑になり安定したオッズを提供しにくくなる。)しかしながら市場で価格(オッズ)調整がされるようになった現在、需要次第ではそのような賭け方の市場も現れるかもしれません。

賭博市場での賭け方

以下の画像は Betting Exchange 最大手の betfair における match odds market です。上と同様に3つの未知の outcome 、ホームチームの勝ち、アウェイチームの勝ち、引き分けを対象とした market です。



market の言葉どおり、取引は株式など証券市場と同様に板寄せ方式によって行われます。証券取引を頻繁にされている方は、まさに見覚えのある「板」そのものだ、と感じるのではないでしょうか。ここでは未知の outcome が証券、オッズが価格、オッズの下にある価格がボリュームとなります。

左右に並んだ"back"と"lay"はそれぞれ「買い注文」「売り注文」となります。*1賭博市場、Betting Exchange での取引にはブックメーカーと大幅に異なる点があり、それは賭博市場ではこの3つの証券を「売買」できるという点です。従来の賭け方だと、ブックメーカーから一方的に提示された価格でのロングポジションしか選択肢がありませんでしたが、市場に参加することで自分の好みの価格で、ロング、ショートどちらのポジションを持つことも出来るのです。



例を見てみましょう。まず、左側の back 、これは買いを表します。買いは従来のブックメーカーでの賭け方と同じものでペイオフも同様となります。ホームのマンチェスター・ユナイテッド勝利に$100を賭け場合、つまり「証券:home」を購入したときの損益は以下のようになります。

表2 back position のペイオフ

結果 ポジション 価格(オッズ) 損益
ホームチーム ( = Man Utd ) 勝利 $100.00/back 2.86 + $186.00
アウェイチーム ( = Chelsea ) 勝利 - - - $100.00
引き分け - - - $100.00


では、右側の lay 、すなわち売りを行った場合のペイオフはどうなるのでしょう。「証券:home」を$100売ってみた場合を見てみましょう。

表3 lay position のペイオフ

結果 ポジション 価格(オッズ) 損益
ホームチーム ( = Man Utd ) 勝利 $100.00/lay 2.88 - $188.00
アウェイチーム ( = Chelsea ) 勝利 - - + $100.00
引き分け - - + $100.00

ホームチーム勝利の「売り」なので、ホームチーム勝利以外の結果、すなわちアウェイチーム勝利、引き分けどちらでも収益が発生します。チェルシーを応援しているのだけど、マンチェスター・ユナイテッドは強いチームだから引き分けまでは仕方ないという思いからベットしたい方であればチェルシーを買うよりマンチェスター・ユナイテッドを売った方が望むペイオフを得られるかと思います。


このときの取引相手は「証券:home」を@2.88で購入したことになります。買い方のペイオフは購入価格が異なるだけで他は表2と同じです。「ある賭博」について「買い方=賭ける」と「売り方=賭博を受ける」がおり、両者間のお金の流れが逆になると理解すれば分かりやすいですね。

合成ベット

実はこれら3つのアウトカムは独立していないため(ホーム勝利=TRUEのときは必ず、アウェイ勝利=FALSE and 引き分け=FALSE)、back position を合成することにより lay position と同様のペイオフを作り出すことが出来ます。例えば、「証券:away」「証券:draw」をそれぞれ$100、$86のロングという合成ポジションは「証券:home」の$100ショートと同じようなペイオフとなります。

表4 synthetic position のペイオフ

結果 ポジション 価格(オッズ) 損益
ホームチーム ( = Man Utd ) 勝利 - - - $186.00
アウェイチーム ( = Chelsea ) 勝利 $100.00/back 2.86 + $100.00
引き分け $86.00/back 3.30 + $97.80

賭博市場が誕生する以前、「買い」しかできなかったブックメーカーのときから、実はベットを合成することにより擬似的に「売り」も出来ていたのですね。ところが、ブックメーカーから提示される一方的なオッズでは合成する機会はほとんどありませんでした。なぜなら、ブックメーカーの提示するオッズにはブッキーの収益となるような意図的な歪みがつけられていることがほとんどだからです。合成ベットはモロにこの歪みに影響を受けてしまうんですね。表3と表4にある微妙な差もその歪みに起因するものです。合成ペットはまた、合成ポジションの価値と現証券の価値を比較して割高を売り、割安を買う、という裁定機会を生み出します。このあたりの話も今後書いていこうと思っています。

*1:"back"は「実現する」に賭ける、"lay"は「実現しない」に賭けるという意味。